
ヤン・エリック・オルソン (スウェーデン)
【1941 ~ 】
1973年8月23日、刑務所から仮釈放中であったオルソンは、サブマシンガンで武装し、スウェーデンの首都ストックホルムの中心部ノルマルムス広場にあったクレジットバンケン信用銀行に押し入った。
すぐに警官が駆け付けるが、オルソンは警官に向けて持っていたサブマシンガンを発砲し、軽傷を負わせた。
オルソンはそのまま9人の銀行員を人質に取り、籠城する。
その後、警察との交渉に応じ、その日の内に9人の内、5人を解放。
男性1人と女性3人を人質として引き続き立て籠った。
オルソンは300万クローネ (現在の価値で約4500万円) の現金と、1966年に銀行強盗の罪で服役しているクラーク・オロフソンの解放、そして、自身の逃走を認める事を要求する。
何故、オロフソンの解放を促したかというと、実はオルソンはオロフソンが16歳の時から犯罪仲間として、武装強盗や暴行などで何度も共にしていたからだった (ちなみにこのオロフソンは「スウェーデン史上最も有名な銀行強盗」と言われる人物である) 。
警察はオルソンの要求をのみ、現金を渡し、オロフソンは解放してオルソンと合流させた。
また、逃走用の車も提供されることになった。
2日後の25日、警察側は犯人たちが人質と共に立てこもっていた金庫室を封鎖。
食料の要求も拒否した。
更に2日後の27日、警察は犯人や人質たちのいる金庫室の天井を開け、
「武器を捨てて投降しなければ、最後の手段を取る」
と説得する。
オロフソンは開けられた穴に向かって2度発砲し、2度目の時には1人の警官の手と顔を負傷させた。
同日、オルソンは当時のスウェーデンの首相オロフ・パルメに電話し、安全に脱出させなければ人質を即座に殺すと脅した (余談だがパルメは1986年、ストックホルムで暗殺されている) 。
翌日28日、パルメに再び電話が入ったが、電話の主は人質の1人クリスティン・エンマークであった。
エンマークはパルメの強硬な姿勢が不満であり、犯人たちと共に私達人質を現場から去らせて欲しいと訴えた。
当初、この訴えはオルソンが人質を脅して言わせていたものと思われたが、実はそうではなかった。
同日夜、警察は催涙ガスを使用する強硬策をとり、ガスの注入に気づいたオルソンとオロフソンが、金庫から出てきた所を逮捕した。
人質は全員解放され、これといった傷は見受けられなかった。
事件解決直後にはパルメが現場に駆け付けている。
銀行強盗が人質をとって立て籠るということ自体、珍しい事でも何でもないが、この事件が世間の注目を集めた理由が、犯人と人質との関係性である。
人質解放後の捜査で、犯人が寝ている間、人質たちが犯人を取り押さえる所か、警察に銃を向ける等、人質が犯人に協力し、警察に対し敵対行動を取っていた事が判明。
また、解放後も人質たちは警察の尋問に対し、犯人を庇い、警察に非協力的な証言を行った。
この問題を調査したフランク・オックバーグ博士は
「人は突然事件に巻き込まれて人質になる。そして、死ぬかもしれないと覚悟する。生殺与奪は犯人に握られ、許可がなければ飲食もトイレも、会話もできない状態となる。そんな自由を完全に奪われた中、犯人から食べ物を貰ったり、トイレに行く許可を与えられる。当たり前の事を犯人からの小さな親切だと錯覚し、感謝の念を抱くようになり、好意すら感じるようになる。そうなると、犯人も人質に対する見方を変える」
と極限状態における心理状態を説明した。
長時間、閉鎖的な非日常的体験を犯人と人質が共有することにより、犯人の心情や事件を起こした経緯を聞くと、それに同情したり、人質が犯人に対し信頼や愛情を抱くようになる。
また、警察が突入し人質を全員殺すとなれば、人質は警察が突入すると自分達は殺されるので、必然的に警察には突入して欲しくないと思う。
故に人質を保護しようとする警察を敵視するという矛盾の心理が働く。
この事件以降、このような心理状態を『ストックホルム症候群』と呼ぶようになり、その後の事件等の参考にされた。
オルソンは逮捕後、裁判で懲役10年の判決を受けた。
1980年、オルソンは出所し、自動車販売の仕事に就いた。
しかし、オルソンはある経済犯罪の嫌疑でスウェーデン当局から追われるようになり、10年もの長きに渡る逃亡生活を続けた。
2006年、オルソンは自ら出頭したが、この時点でオルソンの嫌疑は既に晴れていた。
逃亡中、オルソンはタイに15年居住していたのだが、現地のタイ人女性と結婚している。
2009年には自伝を出版している。
オルソンは犯罪から手を引いたが、オロフソンはその後も犯罪を重ねている。
∽ 総評 ∽
極限の状態により奇妙な関係を築いた銀行強盗事件。
閉鎖的な空間で長時間生活を共有し、いつ殺されるかわからない極限の精神状態の中、優しくされれば、そういう心理状態になるのは無理ないかもしれない。
マインドコントロール等では近い方法が使用されるが、オルソンの場合、元々人質達にそのような事をするつもりはなく、偶然そうなってしまったというのが面白い。
よく、暴力を振るう男性から離れられない女性がいるが、この『ストックホルム症候群』と精神状態は似ている。
彼氏や夫という狭いコミュニティの中で、普段は暴力を振るい続けられ、ごくたまに優しくされる。
その優しさを「すごい優しい人」だと勘違いして思ってしまう。
そのたまの優しさが、本人が気付かない間に「中毒」になってしまうのだ。
そう言った手法をわざと利用して犯罪を犯す人物もいるので、筆者を含め皆さんも騙されないよう注意して生きていきたいものである。
【評価】※個人的見解
・衝撃度 ★★★★★★★★★☆
・残虐度 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・異常性 ★★★★★☆☆☆☆☆
・特異性 ★★★★★★★★★★
・殺人数 0人
《犯行期間:1973年8月23日~同年8月28日》
コメント
コメント一覧 (2)
教えて頂きありがとうございます。
早速変更致しました。