
マーシャル・アップルホワイト (アメリカ)
【1931~1997】
マーシャル・ハーフ・アップルホワイト・ジュニアは、1931年5月17日、アメリカ・テ
キサス州スパーで生まれた。
アップルホワイトは音楽教師の仕事をしており、結婚して子供もいた。
ごく普通の生活を続けていたアップルホワイトだったが、スピリチュアルに関心を持っているという共通点から、看護師のボニー・ネトルスと出会い、すぐに意気投合する。
この出会いがアップルホワイトの人生を大きく変える事となる。
アップルホワイトとネトルスとの関係は、肉体的なものではなく、精神的に強く結ばれていた。
そんな2人は家族との生活を捨て、生きる意味について答えを見つける為、全米を横断する。
そんな生活を続けること6ヶ月、突然、
「自分たちは特別な使命を持ち、地球に送り込まれたのだ」
と目覚め、ニューエイジにサイエンス・フィクション、キリスト教を融合させたカルト宗教『ヘヴンズ・ゲート』を創設した。
1970年代のことである。
2人は全米各地で演説を開始し、
「聖母マリアは処女でイエスを身籠ったわけではない。実はUFOによって地球外に連れ出され、妊娠させられて地球に戻って来たのだ」
「肉体は魂が運転する車に過ぎない。修行を積めば魂は次のレベルへ、地球を出て我々がやって来た場所に、天国へ行けるようになるのだ」
と独自の説を展開する。
ヘヴンズ・ゲートはSF好きな若者を中心に人気を集め、1度の公演で500人以上が出席するまでになる。
メディアからも注目されるようになるが、アップルホワイトはこれを嫌い、水面下で活動することを決める。
アップルホワイトは
「親や兄弟、友人全ての連絡を絶つ」
という厳しい規則を敷き、その教えてについて来れる者だけを集めた。
そんな教えについて来た信者たちの事を
「クラスの者たち」
と呼び、それぞれの信者に新しい名前を与えた。
信者たちは次のレベル、天国へ行く。
いわゆる「卒業」に向けての修行を開始する。
そんな「卒業」に向けて、信者たちは沢山の書籍を読ませ、いつくもの命令を下した。
その命令をきちんとこなしているかどうかチェックするパートナーがおり、厳しく見張った。
教団内は厳しい管理の下、窮屈な環境での生活であったが、信者は皆喜んでこなしていた。
ヘヴンズ・ゲートの修行内容は、
「人間臭さを捨てること」
であった。
「ヘヴンズ・ゲート」は「卒業」、つまり次のレベル、宇宙人になるということなので、人間臭さを捨てるのは当たり前であった。
アップルホワイトによると、宇宙人には性別はないとされ、女性は女性を強調するような服を着たり、化粧をする事を禁じた。
性交渉も人間臭い行為だとして禁じた。
この禁欲生活は男性にとったは大変な苦痛で、この悩みを解決する為に、アップルホワイトを含む8人が去勢手術を受けるという極端な行動に出ている。
また、魂の入れ物である体は、定期的にメンテナンスが必要とされ、「マスター・クレンザー」という名の浣腸を行った。
浣腸はレモネードとカイアンペッパー、そしてメイプルシロップを混ぜた飲み物で、食事も様々な方法を試し、絶食することも多々あった。
1985年、創始者の1人であるネトルスが、癌の為死去する。
このネトルスの死が教団の大きな転機となる。
アップルホワイトは
「ネトルスは次のレベルに昇進したのだ」
と理解し、
「ネトルスは天使の身体を手に入れ、後日、信者にたちを迎えに来る」
と説明し、また
「自分だけがネトルスのメッセージを受け取る事が出来る」
と発言し、信者はアップルホワイトを教祖というよりかは、メシア (救世主) として崇めるようになる。
だが、入団から10年、15年と経った信者の中には教団の教えに疑問を抱く者も出て来た。
そして、教団を去る者が現れたが、そんな信者にアップルホワイトは、
「きっと、君はそうデザインされたのだね」
と言って理解を示し、脱退を受け入れた。
しかし、相次ぐ脱退者に焦りを感じるようになったアップルホワイトは、
「次のレベルにいく時が早まった」
と頻繁に口にするようになった。
1996年、「ヘヴンズ・ゲート」はサンディエゴに移り住むのだが、この移動直後から
「もうすぐ地球がリサイクルされる。その前に次のレベルに行かなければならない。これは最後のチャンスだ」
と言うようになる。
「ヘヴンズ・ゲート」は、サンディエゴでウェブサイトを制作し、資金を稼ぐようになる。
自らの教団のサイトも制作し、教団サイトを見て入信する者も多数存在した。
1997年、アップルホワイトはヘール・ポップ彗星が地球に接近することを
「合図」
だと言い、人間の身体を捨てて次のレベルにくる時だと信者に伝えた。
アップルホワイトと38人の信者は、教団近所のレストランで最後の食事を摂る。
この時の様子を店のウェイターは
「みんな同じ服を着て皆同じ物を食べていた。サラダ、ターキーパイ、チーズケーキにアイスティーとありきたりなメニューだった」
「とても礼儀正しく、皆ニコニコしていた。とても集団自殺をするようには思えなかった」
と証言している。
同年3月26日、カリフォルニア州ランチョ・サンタフェのアップスケールサンディエゴコミュニティにある賃貸住宅の中から遺体で見つかった。
遺体はアップルホワイトと信者38人であった。
警察は司法解剖の結果、死因は鎮痛剤とアルコールを飲み、頭からビニール袋を被ったことによる窒息死であると発表した。
また、全員が同時に死んだわけででなく、3月22日から26日の間に順々に自殺していったことも判明する。
同時に自殺しなかった理由は、先に死んでいった信者たちの身の回りを綺麗にし、旅立ちの為に布を被せるなどした為だと思われた。
教団内には物がほとんど置いてなく、所々に宇宙人の絵が蝋燭と共に飾られていた。
早い段階で「ヘヴンズ・ゲート」から脱退した元信者は、アップルホワイトの最後のビデオを見て
「最初の頃の面影がなかった。余裕がなく、必死な感じがする。見ていてつらい」
と発言した。
また、別の信者は、
「これしか逃げ道がなかったのでしょうね」
と語る者のいた。
自殺した信者は38人は、最後のさよならビデオを録っており、
「この日の為に皆頑張ってきた。とても嬉しい」
「アップルホワイトの導きがあるから安心して次のレベルへいける」
と穏やかな表情で嬉しそうに語った。
だが、遺族たちは
「39人による集団自殺なんかではない。1人
の自殺、そして38人は強制的に自殺させられた。自殺なんかではない洗脳されて殺されたんだ」
と涙を流して悲しんだ。
余談だが「ヘヴンズ・ゲート」の元信者だったウェイン・クックとチャーリー・ハンフリースは、教団の集団自殺を知ると、後追い自殺を図った。
この自殺は失敗に終わり、同年5月に回復したが、翌年2月に再び自殺を図り死亡している。
∽ 総評 ∽
通常、宗教による集団自殺は、悪行が露呈する事を恐れ、仕方なく自殺するパターンが多いが、この「ヘヴンズ・ゲート」は初めから自殺に向けて行動していた。
創始者の1人ネトルスの死が、教団を破滅に導いたのは間違いない。
このヘヴンズ・ゲートのように、「死」というものに対して、特別な思想を持つと、このような惨劇を迎える可能性が高い。
何せ死というのが神々しいものなので、何の躊躇いもなくおこせるのである。
大抵のカルト教団は、信者には厳しく教祖自身は甘いというのが基本であるが、アップルホワイトは自身も戒律に忠実で、禁欲の為に自らも去勢するほどであった。
また、カルト教団は脱退者には厳しく、殺してまで食い止める傾向にあるが、アップルホワイトは基本的に脱退者を止めなかった。
これも非常に珍しい。
アップルホワイトのこのヘヴンズ・ゲートは、他のカルト宗教に比べれば、最後の集団自殺を除けばかなりましな方である。
【評価】※個人的見解
・衝撃度 ★★★★★★★☆☆☆
・残虐度 ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
・異常性 ★★☆☆☆☆☆☆☆☆
・特異性 ★★★★★★☆☆☆☆
・殺人数 0人 (38人自殺)
《犯行期間:1997年3月26日》
コメント
コメント一覧 (6)
単一性な生物なんでしょうか。
浣腸といい、いかにもカルトっぽいです。
しかし、洗脳を除いては他者に被害を起こしていないだけましなのかな。
仰る通りまさにカルトって感じですね。
私も他人に迷惑をかけていない分、まだましだと思います。
何が怖いって
自殺する前に
「この日のために頑張ってきた、うれしい」
「導きがあるから安心して」
と微笑みながら語っているところです
うれしい?安心?
これから死ぬのに??
信仰は死が怖くなくなるのですね
これが本当の狂信です
カルト宗教の典型的なパターンですね。
非常に恐ろしいですが、本人たちは騙されたり辛いと思っていないので、ある意味幸せなのかもしれませんね。
確かにそうかもしれませんね。
変わってはいると思います。