_20190118_215521
バーナード・ゲッツ (アメリカ)
【 1947 ~     】



1984年12月22日、アメリカ・ニューヨークで衝撃的な事件が起こる。

バーナード・ゲッツ (1947年11月7日生まれ) という男性が、地下鉄の車内で黒人少年4人に向かって発砲したのだ。

この少年4人は『サブウェイ・ヴィジランティ』というギャング集団のメンバーであった。

1980年代のニューヨークの地下鉄は治安悪化の一途を辿っていた。

当時、ニューヨークの地下鉄では『サブウェイ・ヴィジランティ』が幅を利かせていた。

『サブウェイ・ヴィジランティ』は弱々しい相手を物色すると、ナイフを見せて脅し、金品を奪ったり女性を強姦したりとやりたい放題であった。

その行状に逮捕の為の専用のホットラインが設置されるほど、彼らの存在は恐れられていたのだ。

そんな中、ゲッツによる発砲事件が起こったのだ。

この日、『サブウェイ・ヴィジランティ』の黒人少年4人が、獲物を物色していた。

4人の少年達は、眼鏡をかけた痩せた体型のいかにも弱そうなゲッツを見つける。

本日の獲物を見つけた少年達の内、2人がゲッツに近づき、
「おっさん、財布出しな」
とナイフをちらつかせ脅した。

ゲッツは少年2人を見ると、

「ああ、いいよ。皆で分けなさい」

と笑顔で話し、懐に手を入れた。

すると、ゲッツは財布ではなく38口径の銃を取り出し、少年4人に向かって1発ずつ発砲する。

弾は命中し、全員がその場に倒れた。

4人の内、当たり所がよく軽傷でただうずくまっているだけの少年が1人いた。

すると、ゲッツは

「なんだ、まだ生きてるじゃないか」

と言ってその少年の背中に更に一発撃ち込んだ。

その後、ゲッツは冷静にその場を後にした。

現場は他の乗客が多数いたが、余りの出来事に皆その場に呆然となった。

撃たれた少年達は奇跡的に一命をとりとめたが、追い撃ちされた少年は脊髄を損傷し、後に下半身不随になった。

事件が公になると、全米で注目を集め、ゲッツは逮捕されていないにもかかわらず、ゲッツを擁護する声があちこちで聞かれた。


1週間後の大晦日、ゲッツはニューハンプシャー州の警察署に出頭した。

ゲッツ逮捕後、ゲッツに対する称賛の声が衰える事はなく、ホットラインには数々の意見が寄せられた。


裁判が始まると、市民の声を反映してか、ゲッツは拳銃の不法所持による禁固1年だけという異例の判決となった。

暴行や殺人未遂などの罪には一切問われなかった。

ゲッツの判決が出た夜には、ゲッツを祝してアパートの前で祝賀会が開かれた。

余談だが、このゲッツの事件がきっかけで、ニューヨーク地下鉄の警備を行なっている自警団『ガーディアン・エンジェルズ』の成立に繋がった。

確かに1980年代のニューヨーク市では平均して年間2000件の殺人事件が起こり、60万件以上の重罪事件が発生していた。

これがいかに異常な数字かというと、1980年代10年間の日本の年間平均殺人件数は、約1000件。

日本で1年間に起こる殺人の件数の約倍が、ニューヨーク市のみで起こっているのである。

地下鉄では毎日どこかで火災が発生し、2週間に1回は脱線事故が起きるという異常さであった。

また、地下鉄の電車内はゴミが散乱し、不衛生極まりない状況であった。

無賃乗車は当たり前で、地下鉄公団は年間150万ドルもの損失を強いられていた。

地下鉄内での重罪事件は年間約15000件も発生し、物乞いによる乗客へのいやがらせや軽犯罪などは日常茶飯で、乗客数は史上最低に落ち込んでいた。

そんな中でのこのゲッツの事件は、その後の影響を考えると相当なものであった。



∽ 総評 ∽

ゲッツの犯行は前述したとおり、非難をほとんど受けることもなく、その影響からか4人の少年を撃ったにも関わらず、たった1年の罪で済んだ。

当時のギャングの横暴は凄まじく、ニューヨーク市民が恐怖に怯えていたのは事実だ。

市民も警察の不甲斐なさを嘆いていたのだろう、その中でのゲッツの犯行は称賛されたのだ。

個人的にはアメリカ市民同様、ゲッツに「よくやった」と言いたい所だが、果たして本当にゲッツの行いは「正義」なのだろうか?

確かにギャングの少年4人のやろうとしたことは許される事ではない。

ゲッツに絡む前にも散々悪さをしてきたことだろう。

だからといって公衆の面前で、銃を取り出し堂々と人を撃っていいという事にはならない。

現場に一緒に居合わせた乗客は、ギャング同様、銃を取り出したゲッツに驚いたことだろう。

しかも、ゲッツの場合は「財布を出せ」と言われただけで、この時点ではまだ暴行を受けていたわけではない。

もし、このゲッツの行動が「善」とされるなら、今後、ゲッツのように平時でも銃を持ち歩く人物が増えてもおかしくない (アメリカは銃社会ではあるが、銃を持ち歩くのは禁止されている) 。

公衆の面前で堂々と銃を抜いたゲッツも、ある意味猟奇的ではある。

ゲッツの事件以後、ニューヨークの地下鉄は安全となり、ニューヨーク市での殺人の発生件数は全盛期の64.3%も落ち、770件にまで激減した。

重罪事件も半数ほどの35万件に下落する。

徐々に減ったわけではなく、急に激減したのだった。

明らかにゲッツの起こした事件の影響であり、そう言った広い意味で捉えると、ゲッツの行動は価値が高い。



【評価】※個人的見解
・衝撃度 ★★★★★★★★★★
・残虐度 ★★☆☆☆☆☆☆☆☆
・異常性 ★★★★★☆☆☆☆☆
・特異性 ★★★★★★★★★★
・殺人数 0人
(負傷者4名)
《犯行期間:1984年12月22日》