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ウィンストン・モーズリー (アメリカ)
【1935 ~ 2016】



1964年3月13日、アメリカ・ニューヨーク州クイーンズ郡で、キャスリーン (通称、キティ) ・ジェノヴィーズ (28歳♀) が殺害される。

ジェノヴィーズはバーのマネージャーをしており、朝方未明まで仕事をしていた。

そして、車で帰宅し駐車場に車を停め、徒歩で家に向かった所、ウィンストン・モーズリーに襲われる。

モーズリーは突如、ジェノヴィーズの背中をナイフで刺した。

ジェノヴィーズが、
「ああ神よ!誰かが私を刺しました!助けて!助けて!」
と叫ぶと、近くのアパートの窓の明かりが点灯した。

そして、部屋の住人が窓を開け状況を確認すると、ジェノヴィーズに向かって怒鳴った。

モーズリーは怒鳴り声に驚きジェノヴィーズから離れ、逃げるように自分の車に向かった。

だが、住人は怪我を負うジェノヴィーズを助けようともせず、すぐに窓を閉めて部屋の電気を消した。

それを見たモーズリーは、重傷を負って家に帰ろうとするジェノヴィーズの元へ再び戻り、再度刺した。

再びジェノヴィーズが叫び声を上げると、建物の明かりが点灯した。

モーズリーは自身の車に乗ってその場を立ち去った。

ジェノヴィーズはその場に倒れていたが、この時は瀕死の重傷を負いながらもまだ生きていた。

だが、またもやモーズリーは現場に戻り、ジェノヴィーズの首や背中を刺してとどめを刺した。

しばらくして同じアパートに住む男性が警察に通報し、警察が駆けつけたがジェノヴィーズはすでに死亡していた。


同年3月19日、モーズリーはクイーンズ郡オゾンパークで強盗を行っている時に逮捕された。

この時点で警察はモーズリーをジェノヴィーズ殺害の犯人だとは思っていなかった。

モーズリーは逮捕時、犯罪記録がなく、結婚して3人の子供がいた。

しかし、モーズリーは拘留中にジェノヴィーズ殺害を告白する。

当初、警察は信じなかったが、モーズリーが犯人しか知り得ない物理的な証拠を裏付ける発言をした為、モーズリーはジェノヴィーズ殺害で再逮捕された。

モーズリーは犯行当日、午前2時頃に家を出ると、獲物を物色する為にクイーンズ地区を車で徘徊した。

そして、たまたま目にしたジェノヴィーズを目撃すると、殺すと決めて車を追い掛けたと述べた。

また、モーズリーはジェノヴィーズ以外の犯罪についても次々と告白した。

モーズリーはジェノヴィーズ以外に他に2人の女性を強姦して殺害し、30件から40件の窃盗についても自白した。

モーズリーは女性を標的にした事について「単純に女性を殺す」事を好んだと述べた。

だが、モーズリーはジェノヴィーズ以外の殺人と窃盗については証拠がない為、起訴される事はなかった。


同年9月8日、モーズリーの裁判が始まると、当初、モーズリーは無実を主張した。

だが、後にモーズリーの弁護士は、モーズリーの精神状態を理由に無罪の訴えに変更した。


1965年6月15日、7時間の審理の末、モーズリーには死刑の判決が下された。

判決を言い渡された時、モーズリーは表情を変える事なく感情を一切現さなかった。

判決を言い渡した判事は
「このようなモンスターを見ると、私は自分自身が死刑判決を下す事に躊躇う事はない」
と述べた。

このモーズリーの事件は、近所の住人数十人がジェノヴィーズが襲われているのを目撃しているにも関わらず警察に通報しなかった事から、この事件をきっかけに傍観者効果 (自分以外の傍観者がいる場合、率先して行動を起こさない心理状態) が提唱される事となった。

実際、モーズリーは傍観者心理を理解し利用ており、住人に見られたにもかかわらずすぐに逃げなかった事について、

「目撃者はすぐに窓を閉めて寝るだろうと思っていたが、実際その通りになった」

と述べている。


死刑判決を言い渡されたモーズリーであったが、ニューヨーク州が1967年に死刑が廃止された為、モーズリーは終身刑となった。


1968年、モーズリーはバッファローにある病院へ向かう途中に脱走し、アッティカ矯正施設で女性を強姦した上、人質にとって立て籠った。

だが、モーズリーはすぐに逮捕され、再び刑務所に収監された。


1977年、モーズリーは大学の学位を取得した。


その後、モーズリーは仮釈放の許可申請を何度も提出するが、その都度裁判所に拒否され、2015年の段階で実に18回拒否されていた。


2016年3月28日、ニューヨーク州ダンネモラにあるクリントン矯正施設で死去する。

享年81歳。

モーズリーは1964年7月7日からおよそ52年もの間、投獄されていた事になり、これはニューヨーク州では最も最長の記録であった。


最後に女性殺害について述べたモーズリーの言葉で終わりたいと思います。

「彼女らはより簡単で反撃しなかった」



《殺人数》
3人? (他犯罪多数)

《犯行期間》
? ~ 1964年3月13日



∽ 総評 ∽

女性を滅多刺しにして殺害したモーズリー。

モーズリーは傍観者効果と最長の期間投獄されていた事で、当時、ニューヨーク州における最も有名な受刑者と呼ばれた。

モーズリーは他にも女性の殺害を自供したが、証拠や遺体が発見されず、結局、ジェノヴィーズのみの殺人で裁かれた。

ただ、元々モーズリーはジェノヴィーズ殺害で逮捕されたわけではなく、告白した事で発覚しているので、そう考えると他の自供もまず間違いないと思われる。

このモーズリーの事件は都市における傍観者効果が問題となり、世間を賑わせた。

日本人はどちらかというと傍観者効果寄りの民族性であり、日本でこの結果ならわからないでもないが、アメリカで起こった事で問題となったのであろう。

死刑を宣告したにもかかわらず死刑が廃止となった為、終身刑となったのだが、52年も生活させるのに一体どれ程の税金が投入されたのだろうか。

考えるだけでも腹立たしいので、これ以上は考えるのを止めたいと思う。