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ラリー・ナサール (アメリカ)
【1963 ~     】



2016年9月、元体操選手のレイチェル・デンホランダーが、メディアのインタビューに答える。

それは衝撃的な内容であり、アメリカ代表のチームドクターにしてミシガン州立大学の医師ラリー・ナサールから性的暴行を受けたというものであった。

このデンホランダーの告白を受けて、次々と女子体操選手が性的被害を訴えた。

被害者の中には金メダリストのアリー・レイズマンや2000年のシドニーオリンピックのメンバーであるジェイミー・ダンツシャー、1999年から2001年の間、全米女王に君臨していたジェシカ・ハワード、ジャネット・アントリン、ミシガン州立大学の体操連盟所属の有名選手も多数含まれていた。 

この時、ナサールはすでに性的虐待で逮捕されており、2016年12月、児童ポルノの画像等を所持していたとして禁錮60年が言い渡された。


2018年1月16日、ナサールの新たな裁判が始まる。

当初、被害女性88人が法廷で証言する予定であったが、最終的にはほぼ倍の156人に膨れ上がった。

ナサールは1996年から2015年までの間、オリンピックチームの医師としてアメリカ代表選手を治療していた。

裁判では次々と被害女性が証言台に立ち、自身がされた性的暴行について勇気を持って赤裸々に語った。

ほとんどの選手が10代の頃に性的暴行を受けたと証言した。

被害女性たちは、スポーツで怪我をし、治療を受ける為、ナサールに診てもらい、治療の一環として性的暴行を受けたと証言した。

ナサールは治療と称し、肛門や膣に指を入れたり、胸をまさぐったと被害者は主張した。

だが、ナサールはそれらは適切な医療処置であったと容疑を否定した。

しかし、裁判が進むにつれ、ナサールは医師という立場を利用し、治療を装って女性に性的暴行や猥褻行為を繰り返したと認めた。

また、ナサールは裁判が始まる前の7日間に渡り、多くの被害者の証言を聞き、心の底から震えたと述べ、

「私がどれほど申し訳なく思っているか言葉で言い表す事は出来ない」

と答弁で被害女性らに謝罪した。

だが、裁判官のローズマリー・アキリーナ (♀) は、ナサールの反省は表向きの口だけだとし、ナサールが裁判直前に裁判所に宛てた手紙を取り出し、
「あなたは手紙で『私は良い医師だった』や『捨てられた女ほど恐ろしいものはない』等と反省どころか被害者の女性を非難している。あなたがまだ (自身の犯した罪について) 分かっていない事はこの手紙が物語っている」
と読み上げ、語気を強めて手紙を投げ捨てた。

そして、
「あなたは自分の答弁を取り下げますか?」
と冷たく言い放った。

ナサールが

「いいえ」

と答えるとアキリーナ裁判官は
「でもあなたは罪を犯した。そうですよね?あなたは罪を犯しましたよね?」
と問い詰めた。

そして、
「私はあなたの死の宣告に署名しました。自分では分からないでしょうが、あなたは危険人物だ。今も危険人物であり続けている」
とナサールを痛烈に非難した。


同年1月24日、アキリーナ裁判官は
「あなたは2度と刑務所の外を歩く事はありません」
と言い放ち、禁錮175年を言い渡した。

このアキリーナのナサールに対する強硬な姿勢は大勢の人から称賛を浴び、「最高」等とコメントが殺到した。

だが、何人かの被害者はアメリカ体操連盟や大学、アメリカオリンピック委員会といった組織に相談しても取り合ってもらえなかったと主張しており、そこにも問題があるとされている。


同年2月2日、裁判の審理に出席したランドール・マーグレーブスは、被害者の娘3人の内、2人が証言を終えた直後、ジャニス・カニングハム判事に
「この悪魔と鍵を掛けた部屋に5分だけ下さい」
と述べた。

法廷からは笑い声が上がったが、カニングハムは
「それは出来ません」
と述べた。

すると、突如、マーグレーブスはナサールに飛び掛かった。

マーグレーブスは保安官補佐の3人に取り押さえられ、ナサールは法廷の外に連れ出された為、審理は中断となった。

カニングハムは
「こんな事をしてはいけない」
とマーグレーブスをたしなめると、マーグレーブスは
「あなたは同じ経験をしていない」
と反論し、法廷から出された。

法廷は20分後に再開され、カニングハムは一同に冷静になるよう促した。


最後に治療中の女性に言ったナサールの言葉で終わりたいと思います。

「声を上げればチャンスを失う」



《被害者数》
156人以上

《犯行期間》
1996年~2015年



∽ 総評 ∽

医師という立場を利用し、20年に渡ってアメリカ選手に性的暴行を行ったナサール。

治療を名目に犯行を繰り返し、立場や状況により抵抗出来ない事を知りつつ欲望の限りを尽くしたナサールはまさに鬼畜の所業である。

ナサールを訴えたのは156人だが、訴えていない被害者を含めればもっと多くの被害者がいるのは間違いない。

以前、治療中に薬物を投与し、薬物中毒にして操った鬼畜医師を紹介したが、医者というのは患者からすれば全てをさらけ出して信用する存在であり、ただ快楽の為に犯行を繰り返す異常者よりも狡猾で陰湿、とても許されるものではない。

アメリカでは昨年に大物映画プロデューサーによる長年のセクハラが問題になったばかりだが、アメリカではこのような事件が隠れているだけでもっとあるのだろう。

裁判の様子は私も一部を見たが、裁判官の女性は気持ちを押し殺し毅然とした態度で臨んでいた。

同じ女性が被害に遭っているという事で色々言いたかった事はあったと思われるが、最小限の非難に留め、職務を全うしていた。

統計的に犯罪は女性が被害者となる事が多いので、個人的には裁判官や陪審員は女性で良いと思う。

同じ女性として凶悪犯を私心を踏まえた厳罰に処せばいいと思う。

今回、残念なのは裁判官が死刑に署名したにも関わらず、結局、禁錮刑になった事だ。

おそらく、陪審員が死刑は重いと判断したのだろうが、それが非常に悔やまれてならない。