マヒン・クアドリ (イラン)
【1977 ~ 2010】
2008年2月から2009年5月の間に、イラン・テヘラン北西部に位置するガズヴィーンで女性が相次いで殺害される。
殺害されたのは6人で、その内1人は男性であった。
同年5月19日、連続女性殺人の容疑者として1人の人物が逮捕される。
逮捕されたのは、マヒン・クアドリという32歳の女性であった。
クアドリの逮捕のきっかけは、交通違反を犯した為だった。
実は目撃者から犯人の車が特定されており、その車とクアドリの車の特徴が一致したのだった。
クアドリは相手に反撃されぬよう標的を慎重に選んだ。
初老の女性を親切を装って言葉巧みに誘惑し、薬物を与えて意識不明にし、首を絞めて窒息死させた。
そして、女性が持つ宝石と財産を奪い、死体を閑静な場所に捨てた。
犠牲者の1人は薬物投与後、意識を取り戻した為、鉄棒で殴り殺した。
また、クアドリはアガサ・クリスティ (イギリス生まれのミステリー作家で『ミステリーの女王』とも言われる) に憧れており、その小説に影響を受けて犯行に及んだ事がわかった。
クアドリは
「私はアガサ・クリスティの小説から犯行方法を学び、少しの足跡も残さないように注意した」
と語った。
イランでは女性による連続殺人で逮捕されたのは初めての事であり (あくまでも逮捕された中で) 、その犯行にイラン全土は衝撃を受けた。
クアドリは『Agatha Christie serial killer (アガサ・クリスティ連続殺人犯) 』と呼ばれた。
ただ、アガサ・クリスティの小説では多くの薬を使用した殺人鬼の話があり、クアドリがどの小説で学んだのか明らかにならなかった。
クリスティの小説はイランでは非常に人気があり、クリスティ自身も生前イランを何度も訪れていた。
その為、クアドリが影響を受けるのもそれほど不思議な事ではなかった。
警察はクアドリが幼い時に母親の愛を奪われた事により長年精神障害に苦しんでいた為だと解釈した。
裁判でクアドリは死刑が言い渡された。
2010年12月20日、クアドリには絞首刑による死刑が執行された。
余談だがイランは死刑大国であり、その死刑執行数は最凶の死刑大国・中国に次ぐほどであった (2015年のイランの死刑執行数は977件、中国は1000件以上と言われているが、中国政府は正式な数を公表していない為、実質イランが世界一) 。
∽ 総評 ∽
『Agatha Christie serial killer』と呼ばれ、アガサ・クリスティの小説に影響され殺人を行ったクアドリ。
イランでは女性による連続殺人というのは少なく、このクアドリが正式に裁かれた初めての連続殺人鬼となった。
よく残酷なアニメや映画、ゲームなどは子供に悪影響を与えるという事でR指定されているものも多い。
精神が未熟な子供にとっては確かに悪影響となる事はあるが、このクアドリはすでに立派な大人である。
正直、子供だろうが大人だろうが悪影響を受ける時は誰でも受けるのだ。
このクアドリほどでないにしろ、誰だって何らかの影響を受けた事はあるはずだ。
ただ、いくら影響を受けたからといって実際に殺人を犯そうとは普通誰も思わないので、このクアドリがそもそも異常だったのだろう。
【評価】※個人的見解
・衝撃度 ★★★★★★★★☆☆
・残虐度 ★★★★★★☆☆☆☆
・異常性 ★★★★★★★☆☆☆
・特異性 ★★★★★★★★☆☆
・殺人数 6人
《犯行期間:2008年2月~2009年5月》
コメント
コメント一覧 (12)
推理小説の真似をしたみたいですが
犯人は捕まらなかった話なのだろうか
捕まるオチなら願いは叶いましたね
その通りですね。
どの小説に影響されたかはわからないですが、小説は大抵が犯人が捕まると思うので、仰る通り彼女は念願が叶ってますね。
そう言えば、2007年に『羊たちの沈黙』に影響を受けた殺人鬼、ホセ・ルイス・カルヴァが逮捕されたニュースを聞き、同作品の映画版を見た事があった事があったため固まってしまった事がありましたが、カルヴァにしてもこの被告人にしても、小説のシチュエーションを具現化したら一体どの様なことになるのか、一度立ち止まって考えることはできなかったのでしょうかね。
それが出来ないからこんな事してしまうのでしょうね。
敬愛や尊敬という気持ちが膨らみ過ぎた結果「私が実行しなければ」という意味不明な使命感のようなものにとらわれるのかもしれませんね。
小説の影響とは口実で参考にはしたでしょうが、この理不尽な社会に対する不満ややりきれなさのうっぷんを晴らしていたのでは・・・と思ってしまいました。ただそのためにちゃっかり弱者のみを狙うところがこの女性のずるさではないでしょうか。
余談ですが、イランなどは私刑や残虐な処刑が多いというイメージがあり今回も処刑はやっ!と驚いたものですが、それでもまだ中国の次点という事実にびっくらしました!!!!!さすが中国ほんと最凶ですね!!!!
そうはいってもイランはイスラム社会の中では女性の社会進出を容認している国ではあるので、だからこそこの女性も小説を嗜める知力があるのでしょうね。それでも女性に対するシバリがきついのは依然変わっておらず女性蔑視・差別は普通のことだと思いますが・・
その通りですね。
私も中東に生まれたらヨーロッパとかに移住した方がましだと思います。
仰る通り命あっての物種ですよ。
その話し酷いですね。
昔は育てられないからといって子供を殺したり捨てたりしたものですが、母親を売るというのは流石に恐ろしいですね。
>もみこさん
酷いですね。
この時代に男尊女卑なんてあり得ないですよね。
中東は男性でもすぐに処刑になると思いますが、女性だから素早く処刑されたのかと思えるほど、男尊女卑が激しい地域ですよ。
鬱憤を晴らしたというのは確かに考えられますね。
日本もまだなんだかんだ言って男女差別ありますからね。
よく「最近は女性が強い」とか「これからは女性の時代」とか言う人いますけど、そんな発言がすでに上から目線で差別してますよね。
個人的には女性の方が生物的にも上だと思います。
教育を受けさせないというのはやはり女性を無力化させるための手段なんでしょうね。なまじ教育を受け、外国の映像や文化に触れるといらぬ知識が増えると思っているのでしょう。この犯人も本を読むくらいですから、そこから他国の社会制度や倫理観を読み取るでしょうし自国との違いを感じるでしょう。もしかして自国の方がマイナーなのかと気付いてしまうかもしれません。イスラム社会の男性にはやはり都合が悪いんでしょうね。だからこそ女性を抑圧し何も考えさせなくするんでしょう。そしてそれは心の奥底では女性を恐れているという気持ちの裏返しではないでしょうか。そこに気づけない・気付かない中東の男性たちは、ワイルドな風貌にもかかわらず執拗で狭量で臆病に思えてなりません。
その通りだと思います。
全ては「恐れ」からくるのかもしれませんね。
かのヒットラーもユダヤ人を虐殺した理由は恐れたからとも言われていますし、女性の有能さを知っているが故に、無理やり閉じ込めようとしているのかもしれませんね。
けど、そんなものは激流を塞き止めるようなもので、いつか破綻して返り討ちに遭いますよ。
クリスティや清張の作品が殺人犯に恐ろしいインスピレーションを与えたというと何やらドラマチックですが、人を殺害することを念頭に置いた歪んだ脳裏には、結局何をインプットしても怖ろしいアウトプットしか出てこないんじゃないか、と思います。
そうですね。
多分、小説はきっかけに過ぎず、元々凶気を秘めていたのだと思います。