ユージン・デ・コック (南アフリカ)
【1949 ~ 】
1985年、当時、警察官であったコックは、『フラクプラース』の隊長に任命された。
この『フラクプラース』というのは、反アパルトヘイト運動家を鎮圧する暗殺部隊であり、悪名高い組織であった (ちなみに『アパルトヘイト』とは人種隔離政策の事で、アフリカーンス語で「分離や隔離」という意味。南アフリカ共和国が世界から非難された政策で、白人以外の人種を迫害した。政策自体は1994年に廃止されている) 。
コックは組織を率いて黒人活動家らを逮捕し、人里離れた農場へ連れて行くと、ただ殺すだけでなく散々拷問した挙げ句、殺害に至った。
こうして殺害された黒人の数は正式には不明であるが、最低でも100人以上は殺害されたとされた。
しかし、当時の南アフリカ共和国大統領フレデリック・ウィレム・デクラークが『アパルトヘイト』を廃止し、コックは組織を率いて沢山の人を殺したとして逮捕されてしまう。
コックは『アパルトヘイトの極悪人』や『プライム・イビル (大悪魔) 』と呼ばれ、その行いが非難された。
コックは1982年に起こした『ロンドン事務所爆破事件』を含む多くの罪で恩赦を受けたが、6件の殺人については直接的な政治的動機がなかったとして裁かれる事となった。
1996年、コックは6件の殺人で2つの終身刑と禁錮212年が言い渡された。
2007年、刑務所に収監中のコックはラジオのインタビューに答え、デクラークについて言及する。
コックは
「私はデクラークに殺人を示唆された。彼の手は血に染まっている」
と『アパルトヘイト』廃止に尽力し、ノーベル平和賞を受賞した程の人格者と言われるデクラークの当時の行いを痛烈に非難した (ちなみにデクラークは南アフリカ共和国最後の白人大統領で、デクラークの後任はかのネルソン・マンデラ) 。
2010年、コックはプレトリア中央刑務所で現大統領ジェイコブ・ズマと密会し、『アパルトヘイト』時代に罪を犯したが何の罪にも問われていない人物についての情報をリークした (その人物たちが逮捕されて罰せられたかは不明) 。
2012年、コックは自身が殺害した犠牲者の遺族との面会が実現した。
コックは遺族に対して謝罪し、遺族たちはそれを受け入れたが、拒否した家族も多くいた。
2014年7月、コックは仮釈放の申請を行ったが、遺族との話し合いがまとまらず、却下された。
2015年1月30日、裁判所はコックの仮釈放を承認した (この時、コックはすでに刑務所に収監されて20年経っている) 。
南アフリカ共和国の矯正サービス大臣マイケル・マスタは記者会見で
「国家建設と和解の為、コック氏の仮釈放を認める決定を下した。しかし、同じく『アパルトヘイト』時代の殺人で有罪になった他の2人の受刑者の仮釈放は拒否した」
と語った。
しかし、このコックの仮釈放のニュースが国内に流れると、国民の意見は分かれる。
「『アパルトヘイト』はすでに終わっている。もう十分に罪を償ったのではないか」
という意見もあれば、
「私たちはまだ『アパルトヘイト』の影響に苦しんでいる。彼は社会に戻るべきではない」
という意見もあった。
最後に2014年7月に仮釈放が認められなかった際の裁判所の審理で語った言葉で終わりたいと思います。
「私は『アパルトヘイト』存続を主張し、解放運動を弾圧しようとした国民党 (当時の与党) の試みの一部として罪を犯したが、南アフリカ警察の中で有罪判決を受け、服役しているのは私だけだ。当時の軍の将校や1990年までに閣僚を務めていた人物は誰1人としていない」
∽ 総評 ∽
秘密組織の隊長として『アパルトヘイト』を批判し、反対運動を起こしていた人物を極秘裏に次々と葬ったコック。
いくら仕事だとしても、基本的に罪のない人間を拷問の末に殺害するというのは、かなり異常と言える。
ただ、人間というのは組織や何かに所属すると、限りなく残酷になれる。
「組織の命令」と考えれば「自分の意図する所ではない。組織のやる事だからしょうがない」と自分に言い聞かせてどんな残酷な事も出来てしまうのだ。
確かにコックが『フラクプラース』の隊長に任命されたのはデクラーク政権時代であり、デクラークの指示の下、結成された可能性は高い。
南アフリカ共和国の事情は詳しく知らないが、これほどの組織を警察幹部のみで行うとは思えない。
最低でも警察を統括する人物の指示はあったであろう。
当時から『アパルトヘイト』への風当たりは強く、国内にも反対派は沢山おり、極秘利に抹殺しようと企んだ
真意はわからないが、コックが今更嘘をつく必要もない。
多分、政治家や閣僚達が、自分達が罪から逃れるようにコック1人に罪を押し付けて罰したのだと思う。
【評価】※個人的見解
・衝撃度 ★★★★★★★☆☆☆
・残虐度 ★★★★★★★★☆☆
・異常性 ★★★★★☆☆☆☆☆
・特異性 ★★★★★★★☆☆☆
・殺人数 100人以上
《犯行期間:1985年~1990年》
コメント
コメント一覧 (15)
これより遥かにやばいですね。まあ人間の憎悪や欲にはうんざりします。
独裁者はシリアルキラーよりある意味危険ですね。
人数が半端ないですし、何より他国に迷惑をかけます。
前から考えていたのですが、今度、独裁者でも掲載したいと思います。
>軟体次郎さん
どうしても知名度的にはナチス・ドイツが群を抜きますが、世界には沢山あります。
戦前の日本もそこまで酷くはないにしても、国民を洗脳したのは間違いないですし。
調子に乗っているというのはあったでしょうね。
「自分は上の人間に守られている」と思い、もし裏切られたとしても自分も上を潰せる程の情報があるので、絶対大丈夫だと思っていたのでしょう。
確かに少しは憐れな部分はあるでしょうが。
やった事は間違いなく許されない行為ではあるのでしょうが、こればかりは些か哀れに思えてしまいます。
「大義名分」って、本当に怖いですよね。
末期には、機械的に犠牲者さんたちを拷問していたのでしょうか…。
仰る通り、多分そうだったと思います。
私たちが朝起きて歯を磨くのと同じように部下から「今日は◯◯人です」みたいに言われて殺害していたと思います。
本当に恐ろしいですよね。
大義名分って世の中に存在しないんですよね。
結局、自分の都合の良いように解釈したい為に掲げてるだけなんですよ。
よくある話しですね確かに。
下っ端に全ての罪を擦り付け真実を隠す。
まあどこの国でもある事ですが。
気になる事件ですね。
今度調べて上手くまとめれば掲載します。
似たような事件ですね。
確かにもっともっと悪い奴はいます。
トカゲの尻尾切りじゃないですけど、本当の黒幕は何のお咎めもなく平々凡々と人生を過ごす。
まあ富と権力がある人間が強いという事ですね。
そうですね。
虐殺だと思います。