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ブルース・イビンズ (アメリカ)
【1946 ~ 2008】



ブルース・エドワード・イビンズは、1946年4月22日、アメリカ・オハイオ州レバノンで、3人兄弟の末っ子として生まれた。

父親はトーマス・ランダル、母親はメアリー・ジョンソン (旧姓ナイト) といい、オハイオ州レバノンの北東にある小さな町で過ごした。

家族は定期的にレバノン長老教会派の教会に行っていた。


母親のメアリーは、PTAに参加し、薬剤師としてドラッグストアを経営していた。

また、地元のロータリークラブと商工会議所にも参加するような活発な女性であった。

そんなメアリーはイビンズを含む3人の子供を精神的にも身体的にも虐待した。


そもそも、メアリーは3人目のイビンズを生む事を望んでいなかった。

その為、妊娠している事を知ったメアリーは、家の階段からわざと何度も落ちてイビンズを中絶しようとした。


しかし、それは叶わず結局、イビンズを生む事になる。


イビンズは科学に興味を示し、熱心に勉強に励んだ。

高校に入学したイビンズは全国名誉協会、科学博覧会、時事クラブなどの課外活動にも積極的に参加した。


1968年、イビンズはシンシナティ大学を卒業するが、大学在学中に細菌の研究に没頭し、卒論は病原菌の毒性について述べたものであった。


1975年12月、イビンズは学生の時から交際していたメアリー・ダイアン・ベッチと結婚し、2人の子供にも恵まれた。


イビンズは36年間、科学者として過ごしていたが、アメリカ陸軍メディカル研究所で、1979年に炭疽菌が発生する事件が起こる。

この出来事でイビンズは炭疽菌に興味を持つようになり魅入られてしまう。


2001年9月18日、トレントン局管内のポストから投函された5通の封筒の内、4通の封筒が、ニューヨークのモルガン局を経由してニューヨークを本社とするテレビ局、NBCニュース、ABCニュース、CBSニュースと出版社であるニューヨーク・ポストへ配達される。


残り1通はフロリダ州ウエストパーム局を経由し、ボカラントンを本社とするアメリカン・メディア社へ送付された。

同年10月2日、このアメリカン・メディア社に届けられた封筒を従業員であるロバート・スティーブンス (63歳) が開封し、直後に病院に運ばれる。

フロリダ病院に搬送されたスティーブンスは、原因不明の嘔吐と息切れを起こし、4日後の10月6日に死亡した。

これが連続炭疽菌事件の最初の犠牲者であった。


ニューヨーク・ポストとNBCニュースに送られた封筒が発見され、その他の3通は開封した人間が炭疽菌に感染した事で、同一の郵便物である可能性が高まる。


同年10月9日、サウスダコタ州民主党上院議員トム・ダシュルと、バーモント州民主党上院議員パトリック・リーヒ両氏宛に封筒が届く。


同年10月15日、ダシュル宛ての封筒はダシュルの側近によって開封され、その後、政府向けの郵便サービスを直ちに中止する措置が取られた。


リーヒ宛ての封筒は開封されず、同年11月16日、バッグの中に封筒が入っており、バッグごと押収された。


上院議員宛の封筒には、高度に洗練された炭疽菌胞子約1グラムが封入されており、その為、使用された炭疽菌は「兵器」という初期の報告がなされた。

これは炭疽菌に精通し、しかも専門の研究施設等でなければ到底生産出来る代物ではないことを意味していた。


この炭疽菌事件によって、少なくとも22人が感染症を発症、5人が肺炭疽を起こし死亡した。

亡くなったのは前述したスティーブンスを始め、ワシントンD.C.にあるブレントウッド郵便局従業員であるトーマス・モリス・ジュニア (55歳) とジョセフ・クルッセン (47歳) 、ベトナム移民のニューヨーク・ブロンクスに住むキャシー・グエン (61歳) 、コネチカット州オックスフォード在住のオッティリー・ラングレン (94歳) であった。


FBIは捜査に乗り出し、それは6州67ヶ所に及び、事情聴取を行った人数は9000人という史上稀にみる大規模なものとなった。

捜査開始時から数百人規模のFBI捜査官が動員され、同時多発テロの容疑者であるアルカイーダの犯行であるという最終的判断を早期に下すか考えていた。


ホワイトハウスは
「アルカイーダによる同時多発テロの第二波攻撃である」
と証明する為に、当時FBI長官であったロバート・ミュラーに対しプレッシャーをかけ、無理矢理ウサーマ・ビン=ラーディンの犯行にしようとした (実際、ミュラーは証拠が出せなかった為、殴られている) 。


結局、犯人を見つける事が出来ずに年月が経過したが、2005年4月4日、メリーランド州フレデリックのフォート・デトリックにある、アメリカ陸軍感染症医学部研究所に18年間勤務している科学者イビンズが犯人であると確信する。

イビンズには科学者という顔とは別に、ジョージ・W・ブッシュの再選を熱望する狂信的な共和党支持者であり、ユダヤ人は選民であるとして、ラビとイスラム教徒の対話を否定する過激なキリスト教原理主義者という裏の顔があった。

その為、民主党議員に炭疽菌を送るという動機が理由として十分であった。


2008年8月6日、FBIはついに炭疽菌事件をイビンズによる単独犯であると明言した。


FBIの声明から遡ること2008年7月29日、イビンズは大量のアセトアミノフェンを服用した事による自殺を遂げた。

FBIがイビンズに対して告発しようと差し迫った事を知った為の自殺であった。


2010年2月19日、アメリカ司法省は事件の終了宣言を行った。


イビンズは犯行当時、鬱病を患っており、それが凶行の原因と言われている。

イビンズの兄弟であるトーマスは
「彼 (イビンズ) は自分は全能だと信じていた。政府の圧力に苦しんでおり、自殺しても不思議ではなかった」
と語っている。


余談だが、このイビンズの犯行は、犯人特定まで長い年月が掛かった事から、1978年から1995年まで捜査が行われたユナボマーこと、セオドア・カジンスキーの犯行に例えられた (セオドア・カジンスキーの項参照) 。



∽ 総評 ∽

炭疽菌を政治家に送り付け、殺害しようとしたイビンズ。

このイビンズによる炭疽菌事件は、同時多発テロからわずか1週間後に発生した為、当時のアメリカに多大な衝撃を与えた。

アメリカ政府は、同時多発テロ同様、この炭疽菌事件もアルカイーダの犯行だと思っていた。

しかし、もちろんこの事件はアルカイーダではない為、いくら調査しても証拠など出るわけもなく、アメリカ政府はアルカイーダの犯行にでっち上げようとした。

退職した元FBI捜査官は
「彼ら (アメリカ政府) は中東の誰かのせいにしたかった」
と証言している。

そもそもアメリカ政府は、炭疽菌は高度な知識と設備が必要不可欠であり、テロリストが籠っているような洞窟等の環境下では到底作り得る代物でない事は重々承知していた。

戦争や侵略の口実として嘘をでっち上げるのは古今東西それほど珍しい事でもないが、このアメリカ政府のやり方は少し無理があり過ぎる。

母親はイビンズを中絶しようと階段からわざと落ち衝撃を与えた。

この胎児の時に脳に打撃を受けた可能性は高い。

また、子供の頃に虐待を受けたのも、イビンズの精神を蝕むには十分であったであろう。

イビンズの行為はテロに近いが、普通の毒殺魔とそれほど変わりはないと思われる。



【評価】※個人的見解
・衝撃度 ★★★★★★★★☆☆
・残虐度 ★★★★★☆☆☆☆☆
・異常性 ★★★★★★★☆☆☆
・特異性 ★★★★★★★★☆☆
・殺人数 5人
(負傷者15人)
《犯行期間:2001年9月18日~同年10月15日》